メがあるではないか。しかし、心を鬼にして、それに甘えたおかげで、小説新潮も、文春別冊も、書きあげることができたし、大阪見物にも支障がなかった。この忙しい最中にも住之江競輪へのしてたった二レースだが、やってるのだから。四百円もうけて四百円損したからタダだ。大阪滞在を通じていくらも眠らなかったが、京家の一大犠牲的奉仕によって、こッちの身命を完うしたようなものである。世話物だったら、人の悲しさも知らないで、鬼じゃ畜生じゃという悪漢が、私のことであろう。
しかし、どうもね。諦めきった侘び住居というようなのが、大阪第一級の旅館として現存しているというのは、実際どうもここに泊っている限りは、山中深く居るようなもので、生気盗れる大阪の街を思いだすこともできないような時間の逆転、異様だなア。全く、どうも、現代というものがない。大阪にお伽話が実在しているようなものだ。焼けなければ、これに類する古風なものは、古い商店街などにまだかなり残っていたのかも知れない。ローソクで営業していたOKはその現代風に変形した同じ心象風景であったろう。
私は声楽家の山本篤子さんに依頼して、大阪の戦後派の(悪い意味ではなく
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