て弱ったが、小林君は蒼白になってクビになりそうだと沈んでいるから、ここはこッちも旅先でムリをしても書いてやるより仕方がない。とはいえ日本地理の見学をそのためにオロソカにしては巷談師たるもの職人の本分にもとるから、これを天の定めと見て、睡眠時間を極度にきりつめることによって三ツながら全うしてみせるという覚悟をかためざるを得なかった。
当夜はモミヂへ宿泊。三人の女中たちとバカ話をして酒をのみ、アンマをたのんで、もんでもらっているうちに十時前にねてしまった。翌朝六時まで昏睡状態。前の晩が徹夜だからだ。
朝九時ツバメにのる。同行する筈の檀君は仕事がおくれて不参。私の座席は展望車であるから考えごとには不向きであったが、檀君の席があいていたので、助かった。考えだすと気ちがいじみてしまう。様子を見にきた小林君は驚いて逃げて行った。
大阪へつくと大雪。実は東京がさらに大雪だった由であるが、そういうこととは知らないから雪を呪いつつ未知の大阪をうろついて、ようやく自動車をひろって、読売支社へ。それから京家へ落ちついたが、結局大阪でたった一軒静かな旅館だというここへ泊ったことは幸運であった。しかし京家
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