潮の小林君が会場へ現れて、半分だけでよろしいから旅先で書いてくれ、同じ汽車でついて行きます、クビになりますから、というので、人をクビにするわけにはいかないから、仕方がない。別冊は別冊で、随筆的なものでよろしいから旅先でたのむ、という。随筆的なものでもよろしいなら、まア、この方はなんとかなりそうだが、小説新潮は連載の捕物帳だ。私はこの捕物帳で短篇探偵小説の新しい型をつくってみたいと思っていた。推理小説では短篇はムリである。西洋でも短篇推理小説で面白い読物はまずない。私は捕物帳に推理の要素と小説の要素を同時にとり入れて新しい型をつくってみたいと考えた。はじめは暗中模索であったがどうやら五回目ぐらいから、新しい型を自得するところがあった。したがって大いにハリキッている際であるから、やッつけ仕事はしたくないし、また、探偵小説というものはメンミツな構成がいるものだ。いっぺんちゃんと殺人事件をつくりあげて、それをひッくり返して書いて行くもの、したがって書くという仕事よりも構成する仕事の方に苦労を要する。構成ができれば一部分書くのも全部書くのも、大して相違はないのである。だから旅先では甚だ心もとなく
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