はコタツに足をいれて寝てしまう。と、芸者にふられて恨みをむすび復讐をちかっている盛り場のアンチャンが怪しき様子で舞台の一方からぬき足さし足現れてくる。
「来た、来た、来たア! 来てまッせえ!」
サントリーを握りしめた酔っ払いの見物人が叫んで、芸者に急をつげる。役者は先刻承知でしょうよ。しかし、こういうときの敬語が面白いな。その辺で着物をぬいでみせないか、という時でも、脱いでくれませんか、たのむ、という意味を言い廻しのややこしい敬語で云うから、エゲツナイことは確かだが、東京の言葉の世界では現すことも感じとることも出来ないナンセンスを現す。その敬語の言い廻しは実に相手の人格を最大限に認めて同時に自分は最大限にへり下った言い方であるから、エゲツないことをポンポン言っても、その角がたたない。大阪人がエゲツないことを言い易いのも、このせいかも知れない。東京の言葉は理づめで、断定的であるから、エゲツないことを云うと的確にエゲツナサだけに終るけれども、大阪の言い廻しは断定的でなく、逃げ路や抜け路や空気孔のようなものが必ずあって、全体として、とりとめなく、感性的なのだ。
しかし、この芝居には驚いた
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