阪」で見て二日目の紙面には、ダンスホールの経営者が軽犯罪法で大目玉をくったという記事がでていた。不敏の至りであるが、私はなぜ軽犯罪にひッかかるのだか合点がゆかなかったが、人に教えてもらってワケがわかった。つまりキンシ勲章はなくなったけれども、文官の勲章はまだ日本にあったんだね。なるほど、我々の老大家も文化勲章をもらった方がいるが、そういう新製品はとにかく勲何等というのはなくなったと思っていましたよ。古道具屋に山とつまれてホコリをかぶっているのだから、シルクハットかなんかかぶって宮城へでかけて、この勲章をもらって、女房よろこべ、感激してわが家へ立ち帰るような出来事がもう日本には行われていないと早呑みこみをしていたのは私一人ではなかったろう。
 この勲章を拝受して女房よろこべとわが家へ立ちかえる行事が厳存している以上、これをダンスホールの主人がダンサーに授与しては、ちとグアイがわるいな。国家の栄誉の象徴をボートクしたということになるのだそうだが、どうもね、古道具屋にホコリをかぶっているのを起用して有効適切に女の子を奮起せしめたのだから、廃物利用としてはマンザラではないではないか。買って帰って子供に授与する方が教育の本旨にかなうのかな。それとも当人が国家から授与されたツモリで愛玩している方が勲章の本旨にかなっているのかな。古道具屋に売ってるのだもの、すでにオモチャの値打しかないのさ。そうではアリマセンカ。
 とにかく大阪はオモロイや。私は大阪でどこかの新聞記者に会うたびに、きいたものだ。勲章授与したダンスホールはどこにあるか、と。すると、彼らはクサッて答える。あれは新大阪の特ダネや、と。各社の社会部記者は部長に怒鳴りつけられたそうだ。こんなオモロイ記事知らんちう新聞記者あるか! アホタレ!
 各社のアホタレどもは無念でたまらないのである。部長に怒鳴りつけられて渋々ダンスホールへおもむいたが、後の祭である。彼らは甚しくふてくされて帰って部長に報告する。行ってみたかて何でもあらへん。アテらが知らんかったんやないでエ。新大阪のアホタレがタネに困ってデッチあげたもんらしいわ。他の人が悪かったせいにしてボヤいている。ほんとにデッチあげたのなら、なおオモロイや。商売のためには何でもやろうという大コンタンは、とにかく大阪のものだ。東京の方から遠く望見していただけでは想像のつかん何かが実
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