安吾の新日本地理
道頓堀罷り通る
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)山寨《さんさい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)土地|名題《なだい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「王+旬」、第3水準1−87−93]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ジュウ/\
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 檀一雄君の直木賞「石川五右衛門」が連載されてから、「新大阪」という新聞が送られてくるが、本社から直接来るのじゃなくて、東京支社から送られてくる。おまけに伊東の宛先の新番地が大マチガイときているから、あっちこッちで一服してくるらしく、到着順の前後混乱甚しく、連載小説を読むには全く不適当である。
 しかし、この新聞はオモロイな。これを大阪のエゲツナサというのであろう。「いきなりグサッ!」という見出しのついた記事をよむと、娘が暗闇を歩いていると怪漢が現れいきなりグサッ! と刺されて重態だという。なるほど「いきなりグサッ!」に相違ない。あるいは、それ以外の何者でもあり得ないほどの真実を喝破しているのかも知れないが、物事は時にあまり真に迫ってはいけないなア。それを日本語で因果物などとも言うよ。大阪のさるお嬢さんが教えてくれた言葉に、エロがかったエゲツナサを特に「エズクロシイ」と云うそうだ。舌がまわらねえや。昨年来「新大阪」を愛読したおかげで、大阪のエゲツナイ話やエズクロシイ話は、大阪へ行かないうちから、相当心得があったのである。
 先月、というと、一月のことだが、その月末ごろに、三流どこのあまりハヤラないダンスホールがダンサー各員一そう奮励努力せよ、そこで週間の売上げナンバーワンからテンまでに勲章を授与した。そう云えば、大阪のストリップは始まる前に軍艦マーチをやるよ。我ながらクダラン所は実によく見物して廻ったなア。この勲章がホンモノの勲章で、勲二等から八等ぐらいまで。ナンバーワンが勲二等をもらったそうだね。古物屋に山程売りにでていて、勲二等でも四百円ぐらいだそうだ。一山買ってきて有効適切に用いたのである。貰った女の子は喜んだそうだ。
 女の子がズラリと並んで勲章をクビにかけてもらッている写真と記事を「新大
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