けだし、いつまでたっても、たった二ツの足跡というのは、小学校の一年生にもいとカンタンに真相が見破られて、足跡を残した拙者にしても何となく罪を犯し神様を土足にかけたようで軽妙な気持ではなかったのである。
 神域に最も接近した民家を「ダルマヤ」と云い、その看板と並んでウェルカムという横文字が書いてありました。全ての家が門を閉し、炊煙いまだ上らず人ッ子一人通らぬ神様の街は寂しいものです。この味気なさに比べれば、古市の遊女屋に泊った方が健全であったかも知れません。

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 日本歴史というものは、奈良朝以前のことはどこまで信用していいのか全く見当がつけかねるようだ。神代記は云うも更なり、この神宮を伊勢の地に移したという崇神垂仁両朝の記事の如きも、伝説であって、歴史ではない。
 神話とか、記紀以前の人皇史は、民間伝承というものでもない。日本にはそれまでに何回もの侵略や征服が行われたに相違ない。そういうことが何回あったか判らないが、その最後の征服者が天皇家であったことだけは確かなのである。そして天皇家に直接征服されたものが、大国主命だか、長スネ彦だか、蘇我氏だか、それも見当はつ
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