空らしきところを通過した記憶がある。去年の夏ごろから東海道の航空路は変ったらしい。私は伊東に住む故に、分るのである。去年の初夏から、しきりに伊東上空を飛行機がとぶようになった。その時までは全く爆音をきかない伊東市だったのである。私はそれを朝鮮事変のせいだと思った。戦線へとぶ飛行機だと思っていたのだ。ところがこの元旦に旅客機にのると、箱根をとばずに、伊豆半島を横切り、駿河湾を横断し、清水辺から陸地にかかって渥美半島先端から伊勢湾を通過。つまり伊東上空をとんでいたのは旅客機だったことが判った。思うに昨春丹沢山遭難以来、航路が変ったのであろう。
怪物の待ち伏せるものなく、我らをもって第一着となすという明確な証拠があってはハリアイがないこと夥しい。東京の雑草どもも伊勢までは根気がつづかぬらしいと判明すれば、神様に同情したくもなろうというもの。よって五十鈴川で顔を洗い手を洗う。水温は山中の谷川に比較すれば問題にならぬほど、生ぬるい。伊東の音無川は河床から温泉がわいて甚しく生ぬるい谷川であるが、五十鈴川はそれよりもちょッとだけ冷めたい程度で、これなら真冬でもミソギは楽ですよ。中部山岳地帯の谷川と
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