彼女らは千年の余、先祖代々同じ生業をくりかえし、海産物の生態に変化がなかった如くに、彼女らの生態にも変化なく今日に至っているように思われるからである。あいにく海女のシーズンではなく、彼女らの多くは他の土地へ女中かなんぞに稼ぎに出ているらしいので、海女村探訪をあきらめなければならなかった。ムリに押しかけて行って、武塔神の如くに南海の女をよばいに来たと思われては、同行の青年紳士にも気の毒だ。
至れりつくせり親切な交通公社の事務員も、御木本のことになると、顔を曇らせ、困りきってしばし口をつぐんだ。
日本の大臣でも見学を拒絶されることが多いそうだ。せっかく遠路遥々出向いてムダ足をふんでもつまらないから。と云うのであった。
なるほど、きいてみれば尤もなことだ。だいたい養殖真珠をやっているのは御木本だけではないけれども、世界各地の業者が技をこらしても、御木本ほどの真珠がつくれないのだそうだ。その秘術によって声価を独占しているのだから、それを見破られると元も子もなくなる。見学を拒絶するのは当然だろう。私が見たって、秘術を見破る眼力は全然ないのであるが、それに私が最も見たいのは養殖の秘術じゃなく
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