はいくつか在るとの由であるが、伊勢のはどこの神社の発行でもない。手製のもので、裏面には急々如律令と書くのだそうだ。昔はたぶん軒並みに全部やっていたものと思われるが、今ではシメだけで護符をつけない家が半分以上ある。
蘇民将来の伝説は、道祖神、石神《シャグジ》、庚神などの正体と共に、今もって全く謎だ。ソミンショーライという音からして日本語とは異質の感じであるが、蘇民という漢字にこだわるのは、いけないようだ。なぜなら、伊勢地方に於ては「蘇民将来子孫」の札よりも「笑門」の札が数倍多く、信州だかでは蘇民祭をソウミン祭と云ってる所もあるそうで、ソミン、ソウミン、それからショウモン、いずれも同一の何かを訛《なま》っているように思われる。どれが原音であるか、又、どれが原音に最も近いか、それは今では判断がつかない。祗園社の蘇民伝説、武塔神やスサノオが蘇民の情誼《じょうぎ》に報いたという説は、どこにも有りふれた報恩説話に後世の人がかこつけただけで、ソミン札の原因はそういうものではなく、もっと深くある地区の民衆の魂に根ざしている何かがあるように思われる。しかし武塔神の伝説にも特に「南海の女によばいして」と
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