て生国居住地がハッキリしている。五十鈴川上のギャングなのである。ところが当時の他の親分が、みんな然るべき大神社に祀られているのに、この親分は天孫の道案内まで務めながら、彼を祀った著名な大神社というものはない。故郷の五十鈴川上の猿田彦神社の如きもチッポケ千万なもの、大国主の大三輪神社その他諸国に数々の大神社、スサノオの八坂神社等々に比べて、神話中の立居振舞相当なるにも拘らず、後世のモテナシ、まことに哀れである。今回の戦争の結末にてらしても、色仕掛にまるめられて侵略者の道案内をつとめたなどという親分は、いずれの国に拘らず、国民に愛されないのかも知れない。彼は神楽の中では、赤ッ面の鼻の長いピエロである。彼は自分の領地をさいて、侵略者の祖神を祀る霊地に捧げるほど奉仕的な忠義者であったが、意外にも世間の受けが悪く、天皇家の史家も芸術家もサジを投げて、忠義な彼を愚かなピエロにしなければならなかったのかも知れない。即ち後日の彼の運命は滑稽にして悲惨である。貝の口へ手の指を突っこんで締めつけられて海中へひきこまれ、ソコドキ、ツブタチ、アワダツという三ツの慌しいモガキ方をして死んだそうである。多情多恨で
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