の破滅よ」
「はやまるわけじゃないよ。すでに学校を卒業して就職する時期に来てるんだもの」
「だって、落第するでしょう」
「しないかも知れないよ」
「就職できないでしょう」
「だから、あせっているのさ」
「ムダだわね。私はアナタが学生だから恋したのかも知れないわよ」
「それはキミの本心かい」
「本心て、なにさ」
「ボクを永遠の大学生にしたいのかなア」
「そうよ。それが好きなのよ。でもね。来年もいまの気持とは限らないでしょ。だから、本心って言葉は無理みたいね。いまの心。いまだけよ」
落第すれば、まだ当分は脈があるらしい様子でもあった。松夫はもう二度と誰とも恋ができないような予感がして仕方がなかった。最近に至って特にそうだ。早い話が、彼はもはや誰の手を握る勇気も起るまい。誰に話しかけることもできない。目を上げる勇気すらもない。恋し得た最後の女、そして結局一生に一人の女が綾子のような気がする。完全だの純粋などという愛や恋のことではなく、あらゆる打算のあげくが、この女一人、である。最後の一文という乞食の愛情である。赤貧のドン底だ。無一物。ギリギリのたった一ツ。それにしては綾子は美人だ。映画館で
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