のよ。親分のオメカケ」綾子はいつも彼をハラハラさせた。彼の手の中からいつでもずり落ちそうな感じだ。彼女が会社のボスのオメカケにならないのはなぜだろうか。会社のボスが堅造なのか、彼女に腕がないのかと松夫は嫉妬した。
むろん綾子は口ほどではなかった。彼女は健全な良妻になりたがっているのである。ただ、松夫の良妻になりたいかどうかが問題なのだ。彼女の話ぶりでは、松夫の人格は認められていないようであった。
「アナタは二三年落第した方がいいのよ。学生にはアルバイトってこともあるし、人目も寛大だけど、卒業するとそうはいかないわよ」
「どうせ卒業できないよ」
「そう思うからダメなのよ。こう考えるのよ。永遠の大学生。ステキじゃない」
「永遠の三下と同じ意味だね」
「よく知ってるわね。悪い方、悪い方へ智恵がまわりすぎるのね。人生は表現の問題だわ。明るく生きよ。詩に生きよ」
「永遠の大学生が詩なんだね」
「詩的表現。永遠の三下が現実かも知れないけど、気の持ちようでどうにでもなるもんよ」
「ボクは、しかし、学校を卒業して、就職できて、キミと結婚したいんだ。それが偽らぬボクの気持だけど……」
「はやまるのは身
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