いので、総てにヒケ目を感じてしまうのである。その一夜、松夫は胸の中でこう呟きつづけた。
「オレに必要なのは革命だ。偉大な革命! 今日行われたあの革命。あの解放感! オレにだって、いろいろなことが、できるのだ」

          ★

 翌日、彼はわざと三十分ほど時刻におくれて校外の庭園におもむいた。宮本武蔵の故智にならったのである。そして、これが自分の真剣勝負だと考えた。水木由子と自分のではなく、自分と自分の未来との生き方を決する真剣勝負だと考えた。これに勝てば自分の未来に勝つことができると考えたのである。
 松夫はアレコレと多くのことを考えていた。たとえば、水木由子はもう今日からはロイド眼鏡をかけないだろうと考えた。それは水木由子が彼の革命に参加したシルシなのである。そして二人はともに解放の喜びにひたる。つまり、植込みの蔭にロイド眼鏡をかけていない水木由子が待っていたなら、すでに真剣勝負は彼の勝に決しているのだ。
 しかし、水木由子がまだ眼鏡を捨てることを知らずに彼を待っていたなら、それはたぶん彼女の心がその素顔と同じようにまだ稚いせいだろう。彼女は書斎の恋愛心理に通じていても、
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