実地の真剣勝負にはうといのである。その稚さは、革命家にとっても、むしろ慈しむべきであろう。そして、その場合には、当然彼の手がその眼鏡を取り除いてやるべきであるが、眼鏡を投げ捨てて踏みくだくべきか、静かに彼女の手に返して理をジュンジュンと説くべきであるか、彼はいまだに迷っていた。むしろそれは成行きにまかせようと考えていた。しかし、樹蔭のベンチのところへ来てみると、そこに腰かけているのは見知らぬ男女の学生であった。そして、植込みの向うの芝生には誰の姿もなかった。
彼女の代りに、彼が芝生に腰を下した。そして、彼女の残した目ジルシが何かないかと探してみたが、彼女がそこにいたという形跡を認めることはできなかった。
「アイビキと剣術の決闘をごッちゃに考えたのはマチガイだったか。革命、真剣勝負という自分の一存にこだわりすぎて、心理学の常道を逸脱したウラミがあるかも知れない」と彼ははじめて気がついた。剣術の決闘だから相手を待っているが、恋愛は汽車と同じように人を待たないのかも知れない。
しかし、彼は根気よく三十分ほどジッと待った。それから庭園内をぐるぐる探し廻って元の位置へ戻ってみたが、どこにも水
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