に現れたでしょうね。フトウフクツですよ。然し、おかしくなるほど、トンマだとは思いませんか。
もしも椎名町で、殆ど有りうべからざる偶然の成功がなければ、恐らく、この先生はむなしく数十軒の銀行を遍歴し、その度毎に新手の術を会得しつゝ永遠に遍歴しつゞけたかも知れません。その程度にトンマな先生のように私は思いました。
然し、椎名町で、イザ、成功してみると、あまりにも、現実に、かの先生の目の前に展開した出来事は凄すぎました。
この凄味を正確に、予想してはいなかったほど、この先生はトンマなように思われます。イザ、目の前に展開した出来事はあまりにも凄すぎたですから、先生は、慌てた。手近かにあった小金だけしか持ち帰る算段がつかなかったほど、彼は、つまり、事件そのものゝ兇悪な結果を、事前に認識していなかったのでしょう。
翌日小切手を受取りに行くのもズブトイというより、トンマ、マヌケ、なのです。バカモノなのです。小切手の署名が殆ど真実の筆蹟らしいのも、マヌケの証拠以外の何物でもないでしょう。
私は、この犯人は、マヌケからマグレ当りに成功し、マグレ当りだから、警察が、なかなか、つかまえられないのだ
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