と思っていました。今でも、そう思っています。
「オール、キャッシュ」
「オール、メンバー、あつまれ」
 などゝ叫んでいるところ、まったくトンマな愛敬であって、私は呆れて、腹も立たないのでした。こういうトンマな先生に、マンマとマグレ当りに、してやられた十二名の被害者は気の毒です。犯人先生も、わが犯罪の余りの凄味に驚き呆れたと思います。
 にも拘らず、たった一万七千円かの小切手を翌日ノコノコと、筆蹟を隠さぬらしい署名をして受けとりに出かけるとはよっぽど金がほしかったのでしょう。この小さな金額を得ることゝ、この大罪人として捕われることとの計算すらも立たないほど、彼はトンマで、たゞ、もう、金に目がくらんでいたのでしょう。
 この一事だけでも、私は犯人のノンキさ、トンマさ、バカさに、確信をもっていました。
 だから、私は、この事件の結果の凄味にも拘らず、犯人がトンマのせいで、事件の本質的な兇悪さを感じていなかったのです。
 私は小平先生は、イヤらしく、汚らしく、にくらしくて、たまりませんが、帝銀先生は、今でも、そう、悪者だと思っていません。たぶん、このトンマ先生は、非常に知性が低いのだと思います
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