す。まったく二人だけの至高の世界に於ける一つの愛情の完結みたいなもので、吉さんが死して自分と共に一つに帰したような思いもしたろうと思われます。
そういうアゲクに吉さんの虚しい屍体を置き残して立ち去るとすれば、最愛の形見に一物を斬りとることも自然であり、最も女らしい犯罪、女の弱さそのものゝ姿で、まことに同情すべきものゝ如くに思われます。
八百屋お七を娘の狂恋とすれば、お定さんは女の恋であり、この二つはむしろ多く可憐なる要素を含むもので、特に現実の女としてのお定さんというものは、たゞ弱く、ひたむきな、そして案外にもつゝましやかな女、極めて平凡そのものゝ女、そういう感じの可憐な人でありました。
私はお定さんのような事件は正しい意味で世間の人々が理解する必要があると考えていますが、だいたい男女の肉体生活の合理性というものが、もっと公開的に論議せられることが望ましいと思うものです。
我々の精神文化、精神上の良心、正義というようなものが、肉体生活の合理性まで隠蔽の上で、からくも歪められた在り方をとゝのえている、それでは魂の平衡は在り得ず、健全な精神生活も在り得ない。
私の文学の真意は多く
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