、反動的に新聞はデカデカかきたてる。まつたくあれぐらゐ大紙面をつかつてデカデカと煽情的に書きたてられた事件は私の知る限り他になかつたが、それは世相に対するジャーナリストの皮肉でもあり、また読者たちもアンタンたる世相に一抹の涼気、ハケ口を喜んだ傾向のもので、内心お定さんの罪を憎んだものなど殆どなかつたらう。
誰しも自分の胸にあることだ。むしろ純情一途であり、多くの人々は内々共感、同情してゐた。僕らの身ぺんはみなさうだつた。あんな風に煽情的に書きたてゝゐるジャーナリストがむしろ最もお定さんの同情者、共感者といふぐあいで、自分の本心と逆に、たゞエロ的に煽つてしまふ、ジャーナリズムのやりがちな悲しい勇み足であるが、まつたく当時は、お定さんの事件でもなければやりきれないやうな、圧《お》しつぶされたファッショ入門時代であつた。お定さんも亦、ファッショ時代のおかげで反動的に煽情的に騒ぎたてられすぎたギセイ者であつたかも知れない。
実際、さうだらう。お定さんの刑期は七年だか五年だか、どう考へたつて、長すぎる。僕はせゐぜゐ三ヶ月か半年、それも執行猶予くらゐのところと思つてゐた。人を殺した、死体に傷を
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