の陶酔のなかでお定さんにクビをしめてもらうのが嬉しいといふ癖があつた。一般に女の人々は、本当の恋をすると、相手次第で誰しもいくらかは男の変質にオツキアヒを辞せない性質があり、これは本来の変質とは違ふ。女には、男次第といふ傾向が非常に強い。
たまたま、どこかの待合で遊んでゐるとき、遊びの果に気づいてみると、吉さんは本当にクビをしめられて死んでゐた。たゞそれだけの話なのである。
いつも首をしめられ、その苦悶の中で恋の陶酔を見てゐる吉さんだから、お定さんも死んだことには気づかなかつたに相違なく、もとより、気づいて後も、殺したといふ罪悪感は殆どなかつたのが当然である。むしろ、いとしい人が、いとしい/\と思ふアゲクの中で、よろこんで死んで行つた。定吉一つといふやうな激越な愛情ばかりを無上に思ひつのつたらうと思ふ。さういふ愛情の激越な感動の果に、世界もいらない、たゞ二人だけ、そのアゲク、男の一物を斬りとつて胸にだいて出た、外見は奇妙のやうでも、極めて当りまへ、同感、同情すべき点が多々あるではないか。
あのころは、ちやうど軍部が戦争熱をかりたて、クーデタは続出し、世相アンタンたる時であつたから
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