まで、殺した家に閉じこもっていたのだろう。
スシ屋へ現れて三四十分かかってスシを食い水を四合のみ、このへんは、さもあらん。いかに大胆不敵でも、ノドがかわく筈だよ。四人を殺すのは大変な仕事だからな。
それにしても、彼女が最も心を用いているのは時間なのだ。信用組合の時間である。ほかに心配はないらしい。衣服や手足毛髪などのどこかしらに血がついていないか、又は、すでに現場が発見されて大騒ぎになり諸方に手がまわっていないか、それが何より気がかりになる性質のものだが、彼女の神経は海底電線ぐらいの太さがあるなア。無神経、バカ、白痴、と見るのは当りませんや。彼女の伝票に残した文字をごらんなさい。
ラーメン弐、[#ここから横組み]¥100[#「100」に二重傍線][#ここで横組み終わり]他の一枚は、ラーメン弐、[#ここから横組み]¥200[#「200」に二重傍線][#ここで横組み終わり]と、書きまちがえて、訂正しているが、その訂正の仕方も小器用で、いかにも馴れた感じである。字も達筆で、金釘流ではなく、¥の横文字もなれたもの。それに面白いのは、弐の字である。どうして簡単な二の字を書かないのだろう。弐
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