うものは、痩せ地を営々と人が汗するよりも湖水にした方が清潔だね。資源をつくる所以でもあり、人間を尊重する所以でもある。単に習性的に父祖伝来の痩せ地を耕すことはないね。
 しかし、中谷先生が屋久島にダムをつくるというから、おどろいたね。私は屋久島へ行ったことはないけれども、千七百年代の初頭、例の新井白石が政治をやっていたころ、イタリヤのパレルモの人、ジョヴァンニ・バッチスタ・シドチという宣教師が死を覚悟で密航してきたことがある。白石の「西洋紀聞」につまびらかな話です。シドチが日本の地を、はじめて踏んだのが、屋久島の尾の間というところです。今の地図でみると、温泉のでるらしいシルシがついてますね。当時の記録にはそんなことは記載がない。そこから一里ぐらい山中へはいって松下というところで里人に発見されてつかまっています。私はシドチのことを調べるために、屋久島については、書物や地図について多少の知識があった。
 この島の中央には九州一の高山、宮の浦岳という二千|米《メートル》ちかい山がそびえ、それを中心にしたほぼ円形の島で平地というものが殆どないのですね。なるほど、この島の雨量は日本一です。その物
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