すごい雨量のおかげで全山神代杉の巨木が密林をなしているそうだ。しかしスリバチを伏せたような島にダムを造るとは、これいかに。そんなうまい方法がありますかね。
私がビックリ仰天して、こう質問すると、中谷先生の返事はアッサリしたもんだったね。
「カンタンですよ。山にハチマキさせるんです。何段にも。斜面の雨をそっくり集めて下へ落す。上のハチマキから下のハチマキへ順に落して行くのですよ。普通のダムにくらべて、むしろ金がかかりません。ハチマキといっても山をそっくり囲む必要はないでしょう。山のヒダのところにだけ、ハチマキさせればよろしいのですから」
おどろいたな、この時は。しかし、甚しくガッカリもした。わが身の拙さを嘆いたのである。
科学もある点まで推理だ、と云ったのは、こういうことさ。これは相対性原理というような独創とは違うね。まさしくタンテイの領域ですよ。もしくは密室殺人の手口を発案するのと似たようなタンテイ眼の所産だね。
しかし、タンテイに比べて、話が雄大だね。私もふとイタズラにダムの設計など考えた覚えはあるが、屋久島にそッくりハチマキさせるという手は全く思い及ばなかった。
つらつら
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