使って、洪水時の岩石の流れ方を調べる実験も行われている筈です。全部見るには、十日かかります」
十日といえば一ヶ月の三分の一だね。あとで三四日ねこむのも予定しなければならない。しかし、中谷先生という大権威に随伴、御説明をねがえるという又とない幸運を逃すような巷談師ではない。たちまち大勇猛心全身にみなぎり、七月の旅行を堅くお約束したのであった。
先生は日本中にダムをつくって廻る計画をたてておられる。只見川の次には紀州。それから屋久島というように。私も昔から、どういう因果か、山で遊んでいると、ダムを思いだす習癖があった。湯河原の奥に広河原という温泉場がある。宿屋は三軒しかない。二本の谷川がここで合流して湯河原の方へ下っている。ここのカマタという旅館で私は時々仕事をするが、箱根の山の一端が広河原、湯河原をかこんで海のところで終りになるが、そこんところをチョイと百メートルぐらいの高さでさえぎると、相当な人造湖ができるね。赤ペン青ペンなんか湖水の底に消えてなくなったってかまわないさ。奥湯河原は雨の多いところだね。私は雨を睨みながら、目の下を流れる川を山の出口でチョイとふさぐことを考える。山とい
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