がよかったが、少くとも一週間は人なき山中を彷徨しなければならないのだからね。小生もすでに年老いたよ。先月その日本地理で仙台へ行き、青葉城という城跡の山へ登っただけでノビたのさ。
「もう、只見川はやめた!」
 私は青葉城本丸跡で文春記者にかく断乎として宣言したのである。さらに塩竈神社というところの石段を二百段ほど登ったときにも、
「もう山登りはコンリンザイやらんよ」
 と、かたく念を押したのである。
 ところが妙なもんだね。仙台から帰りの常磐線にのると、中谷宇吉郎先生と同じ箱に乗り合したのである。
 迂遠な話だが、私は中谷先生がダムの権威で、各地のダム建設に最高顧問として実務にたずさわっておられることを知らなかった。只見川もむろんのことである。いま上京するのも、信濃川ダムへ行くためで、それが終って四月はじめに只見川へ行かれるところでもあった。
「四月の只見川は素人のあなたには登山はムリですね」
 と、先生は青葉城で音をあげた私をかるくひやかしたが、
「しかし、只見川はぜひ一見して下さい。いろいろの問題がありますよ。七月にまた行く予定ですから、そのときに一しょに行きましょう。アイソトープを
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