のが第一の限界です。太田成子は万人の認めうる犯人だ。なぜなら、盗まれた通帳をもって信用組合の金をおろしにきているのだから。そして彼女がその日から八宝亭へ住みこんだことについては多くの証人がいるのだから。しかし、太田成子に情夫がいて、二人共同の犯行であるということは、山口以外の証人がいないのである。しかしながら、山口がかく認める以上は男女共犯説には絶対にマチガイがない。なぜなら、もしも山口の供述する男が架空である場合には山口自身が犯人なのだから。以上が第一の限界です。
 第二の限界は、太田成子が八時半ごろ柳ずしに現れ、九時前後に洋品店へ現れ、九時半ごろ信用組合へ現れているという事実です。そして信用組合から金をひきだす時間をまつために、現場にすぐ近いところでできるだけブラブラ時間を費そうと努力してる非人間的なムジュンです。
 事件はいつ発覚するか分らない。彼女はいろんな客にも顔を見られているし、何よりも山口には顔を熟知せられている。路上で山口に会えばそれまでだが、それを怖れるソブリが全く見られないのはナゼか、しかも山口が生きていることを彼女は知っている筈なのだ。答えは二ツしかない。一ツは、
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