彼女の共犯は、山口が目をさまして起きてきたら殺すために八宝亭のどこかに隠れているから。一ツは、共犯が山口自身であるから。
山口以外の男がいて、太田成子が金をひきだす前に山口が起きてきたら殺すつもりで八宝亭に居残っているとすれば、山口を殺してひきあげるのが当然です。なぜなら、十四万円ひきだすのを成就するために山口が起きたら殺そうと九時ごろまで待ちぶせる危険を冒すほど冷静大胆な犯人なら、山口を確実に殺す方が安全だという当然な結論を忘れる筈もないし、実行しない筈もない。彼の顔を見ているのは山口一人だ。太田成子についても最も多くの不利な供述をなしうるのは山口だ。十四万円ひきだすまで山口を見張る以上は、殺すために見張ったであろう。私が先月号に、男はなぜ山口を殺さなかったろう、と何回も云っているのは、このことである。
太田成子が信用組合へ現れたのは九時半、山口が築地署へ現れたのは九時半。この時間の暗合を考えても、第三の男が山口を見張っていたということは、時間的に考えられなくなるのである。
以上の推理に確実な裏づけを得たのは、毎日新聞へのった山口の手記である。新聞記者は自ら渦中にいて、直接山口
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