の場合には、動物実験の結果自殺か他殺か明確にしうるか否か、ということが第一の限界である。文明開化も幾久しい現代であるが、科学万能というわけにはいきますまい。動物をレキ殺させてみる。その血痕の飛び方をしらべる。レキ断され方をしらべる。同じ条件で行うことは絶対に不可能な筈であるが、しかも絶対に確実な答えをだしうるか否か。
私はその実験の方法についても、方法の結果、また結論についても知らないのだから何ともいえないが、想像してみて、半信半疑ですね。現代の科学的方法によっては、自殺とも他殺とも断定できない、という結論が、あるいは出てくるのではなかろうか。しかし、確実に、自殺也、他殺也、と断定できるなら、結構この上もないことだ。以上が第一の限界である。しかし、下山事件はまだ第一の限界すらも明にはされていない。
すべてタンテイというものは、こういう限界をハッキリと見究めてかからなければならないものだ。その限界を明確にするに時間がかかるとすれば、問題はカンタンさ。自殺、他殺、両方の線で追求するのだね。どちらとも即断すべきではない。
八宝亭の場合にも、限界はいくつもあった。犯人は男女共犯也、という
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