かにそうですから。
 しかし、多少とも文学にたずさわる人間が表面の字面だけしか読めないということが、考えられるでしょうか。しかも、とにかく、批評を書いて、それがお金になるという人間が文章の字面だけしか読めないというバカげたことが現実にありうるとは思いもよらなかった。
 だいたいこの人は文学者どころか常識家としても平凡な市井人としても失格して、ナンセンスにちかい愚人だろうと思います。山口が捕われてからの事情と、そうでない時の事情を混同させているのである。山口が捕われて後に山口を犯人だと云えるのは当り前のことだけれども、彼が誰にも疑られていない時にも彼が犯人だとハッキリ云わなければ疑ったことにならないと彼は考えているのですね。また、そういう断言をしていいものだと考えているらしい。こんなバカな人間がそうザラにいるとは思われないが、よりによって、そういうバカな人が文学の批評家で日本に通用するとは、とんでもないことになったものだ。
 私がフシギな女、フシギな女、と云いふらしているのは、ちッとも女そのものをフシギがっているのではないのさ。どこに怪牛の化け者のようなフシギな女が実在しうるものですか。
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