女は柳ずしで休んでも、信用組合で金をひきだす時間だけを気にしているが、すでに現場が発見されて手が廻っているかも知れないということは全然気にかけていない。
また、洋品屋でお金を払うにも、十円札を六十二枚かぞえるのに十分間もかかり、なるべく長く時間を費して信用組合で金をひきだす時間まで持たせようとしているが、現場が発見されて手が廻るかも知れないことは全然気にかけていない。
だからフシギな女だと私は云うのです。しかし、私の言葉の裏を読めば、全然フシギじゃないじゃないか。どこにそんな怪牛のような、フシギな女がいるものか。要するに、彼女が気にしている九時半という時刻までは、決して現場が発見されないことを彼女は知っているのだ。だから、彼女は信用組合で金をひきだす時間以外は全く心配せず、ただ一途に、それのみ気にかけているだけさ。なぜ彼女はそれまで、現場が発見されないことを知っているか。共犯者は山口だからだ。きわめて簡単明瞭な話じゃないか。
まだ犯人がつかまりもしないのに、犯人は山口と成子だと云えると思っているお前さんが大バカなのさ。文学者は素人タンテイではないのだから、ただ文学者の職分とし
前へ
次へ
全37ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング