云うのかね。
 小平だって、強姦の現場の近くへ人の近づく声をきくと、慌てて女をしめ殺してしまうような、殺人鬼的とはいえ、とにかく人間らしい怯えはアリアリ分るのだが、この女の神経のふとさは、人間として扱いようがないぐらい、同族の弱さがないようだ。
 そうかと云って、小平ほど憎たらしく、イヤらしい気も起らないのは、人間的なところがないせいだろうね。つまり、小平のやったことは、とにかく人間の魂の奥をさがせば覚えのあることだから、憎しみもありうるが、太田嬢は微々たる人間の如きものではないのである。怖るべきメスの怪牛だと思えば、憎むどころか、堂々たる武者ぶりに敬服するね。とても勝てんわ。我らの相手ではない。人間の中でこのお嬢さんと対等につきあえるのは、戦争という怪物だけさ。
 とにかく我ら微々たる人間は、微々たる人間同士で交りを結びましょうや。

          ★

 私は一ツごとに蛇足を加えるのは好まないのだが、先月の「フシギな女」について、東京新聞の小原壮助先生があんまり低能な批評を下しているから、補足することにします。
 この小原壮助という人は批評家の中でも特別頭の悪い人だとは思いま
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