大な意味があるのかも知れん。この怪牛のような女にくらべれば、左文嬢などはなんと人間らしく可憐であるか、その比ではないのである。
帝銀の犯人だって、一同がバッタバッタと倒れるや、ことごとく慌てふためき、開け放しの金庫の中に見えている大金に注意する精神力もなく、目前に有り合せの金を握って逃げたのである。この犯人は、行員を殺すことを意志してはいても、眼前に死ぬ人を見て、空想とちがった現実に慌てたところがあったのだろう。
わが太田成子嬢ははからずも四人をメッタ斬りにして、それほど慌て、おののいている様子はないらしいや。多くの人に顔を知られているのに、すぐ現場の近所をうろつきまわって、時間だけは気にしても、捕われる不安の様子がないのだから。ただ時間だけ念頭にかかるという妙な一途な思いつめ方の奇怪さは論外だ。犯罪者は犯罪の現場へ何食わぬ顔で立ち寄りたがるというが、そんな一般的な人間なみなところは感じられないね。そんなところへ立ち寄りたいような子供じみた、オモチャを弄ぶような心理はないらしく見えらア。オスシだって、十のうち一ツのこして平らげているのも大したものだ。非凡というか、むしろ、超凡とでも
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