はヘとマのちがいで音全体としてもいかにも人に笑われそうな名であるから、子供心に大そう親近感をいだいていたのを忘れない。
私が子供のころ、親類のジイサン、バアサンなどが頭をなでてくれたりしながら、お前男に生れてよかったな、女なら悲しい思いをしなければならないなどとよく言われたものである。
戦後はグンと民主化や文明開化が行きとどいて、古来の因習が少くなり、ヒノエウマの迷信なぞはもう問題にならないように一口に言われがちだが、果してそうか、甚だしく疑問である。
戦後ヒノエウマが人々の話題とならないのは、ヒノエウマ生れの人が新春には四十九歳となり、とっくに婚期もすぎて、落ちつくところに落ちついているせいだろう。泣いた人も涙がかわき、死ぬ人はとっくに死んでしまったのだ。干支《えと》は六十年周期だから、十二支がもう一廻りすると次のヒノエウマの人々がまた生れてくるが、これらの女の人が多かれ少かれヒノエウマの迷信の受難者たること古来の先輩とあまり変りがなかろうというのが私の考えだ。
ヒノエウマの迷信の起りは知らないが、だいたい干支というものは、日本に於ては最も古い文化の一つである。ともかく、これ
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