ヒノエウマの話
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)干支《えと》
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私の本名は炳五(ヘイゴ)という。男兄弟の五人目だから五の字がついてるが、炳はアキラカというような意味のほかにこれ一字でヒノエウマを表している字でもある。また、ヘイゴという音はヒノエウマの丙午に通じてもおって、ヒノエウマづくしのような名前だ。戸籍の半分を名前が表してるから便利でもあるが、齢がごまかせないような不便もある。甚だしく手のこんだ名前だから、親父にとっては苦心の作で、あるいは名作と自負していたのかも知れないが、子供にとっては困った名前であった。
私の生れた新潟では寸をつめて名前をよぶ癖があって、ヘイゴをヘゴとよぶ。敬称のサンを略して「ヘゴサ」とよぶのである。音がよくない。いかにも臭そうだ。それに新潟では弱虫をヘゴタレと呼ぶから益々よくない。南洋の植物にヘゴマルハチというのがあってこれが読本にでてくると、同級生の奴らはゲラゲラキャアキャア大喜びで鳴りやまないから、こういう時には笑う奴をセンメツしたくなったものである。近所の魚屋に「マゴサ」とよばれてる店があったが、私と
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