き通して放したがらないから、
「ヤイ、この野郎、てめえがベタ/\クッつきやがつて放さないから、あの野郎の仕事の能率が上らなくつて仕様がねえや。ちつとは遠慮しろよ」
親分がかう冗談に叱りつけたら、
「イヽーダ」と言つて、逃げて行つた。
事務員になつて毎日横浜へつとめてゐる娘は、この娘だけ例外的に東京に父も母もキョウダイ五人そろつてゐる家があり、人の手前もあんなショーバイしてゐちや悪いと思つたから止めたのよと言つてゐたが、
「ヤイ、今だつて、会社の帰りに遊んでゐやがるんだらう」
「イヽーダ。知りもしないくせに」
「ヤア坊が言つてたぞ、横浜公園をフラ/\してゐやがつたさうぢやないか」
「あんな奴、知つてるもんか」
親分が冗談にひやかすのを、娘の方はムキになつてフンガイに及んでゐる。親分は彼女らが「稼ぐ」と言はずに「遊ぶ」といふ。親分はたしかに真相を看破してゐる。チェッ、この野郎、てめえ達、遊びたいから遊んでるんぢやねえか、結婚したいなんて嘘つきやがれ、結婚してみてえ、と云ふんだらう、やつぱり遊びぢやねえか、遊び放題に遊びやがつて女房がつとまるもんか、とひやかす。いゝぢやないの、たまには
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