わるい野郎だと、もっぱら姐さんが言ってらア」
「そこがかねての狙いです。万事、当節は心理学というものだよ。逆へ逆へと押して出るから、こっちへひかれる寸法なんだ」
 ところがある日のことである。
 事務員らしい三人づれの娘がきた。オシルコを二杯ずつ食べて、額をあつめてヒソヒソと相談している。相談がこじれ、同じところをくりかえして、却々《なかなか》まとまらぬ様子である。それをジッとうかゞっていると、心理学の要領で、ピカリと閃くものがあるから、いそいそと進みでゝ、
「えゝ、わかりました、わかりました。三杯目の御相談でございましょう。お代はおついでの折でよろしゅうございます。今後とも、よろしく、手前がさゝの枝主人でございます」
 と三杯目の甘いところを届ける。娘たちは喜んで、不足分を借金して帰ったが、それから一週間ほど後に、そのうちの一人だけがやってきて、
「マスターに話があるんですけど、どこか別室できいていたゞけませんでしょうか」
「ハア、ハア、では、どうぞ」
 と二階の一室へ案内する。娘は一向に憶した風もなく、
「私、このお店で働きたいのですけど、使って戴けませんでしょうか」
「それは又、
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