さげてみると、一丈四方もある旗のようなもので、
 雰囲気とシックと味の店、甘味処、さゝの枝野球団
 堂々とこう書かれている。つゞいて本塁をまもるシンちゃんがパッとジャンパーをぬぎすてると、派手なユニホームが現れて、この背には、職業野球の背番号の代りに「さゝの枝主人」とデコデコに縫いつけられている。一同アッと驚いたが、もう、おそい。シンちゃんはマスクを振って、
「みんなハリキッテ行け。いゝか、それ!」
 一同、雰囲気とシックの店の下男なみに扱われてしまった。試合なかばにさゝの枝主人は見物人にも挨拶して廻り、皆さんなにぶんゴヒイキに、例の開店案内をくばる。おたがいキッスイの商人のことで、ショウバイのカケヒキは身にしみているから、そのことで出しぬかれても我が身の拙なさ、ムキに怒るわけにも行かないのである。
 さゝの枝の店も人にまかせてはおかず、一々のお客の前に挨拶にでて、エヽ、手前が主人でございます、味はいかゞ、甘味はいかゞ、と伺いをたてゝ御機嫌をとりむすぶ。
「エッヘッヘ。ワタクシ一身にあつまる魅力による当店の繁昌ですな」
「バカ言え。花柳地へ行ってきいてみろ。ニヤニヤとヤニ下りの、薄気味
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