の素人娘のうちでも、この娘などは特別立居振舞の投げやりで粗暴な方であるらしい。然し、女のやさしさやタシナミに欠けるようでありながら、巧まざる色気がこもっていて、申さばシンちゃんの言う如くチャーミングなところがある。だから、粗暴というよりも、奔放自在という感じをうけ、同時に、大いに初々しい。全然笑顔を忘れた仏頂ヅラであるが、これも亦、初々しいという感じで、人に不愉快は与えない。十人並より少しはマシなキリョウであった。思いのほかに上乗な感じであるから、これは案外ホリダシモノだと内心よろこんでいる。
 いよいよ九時がきて、御三方の登場となる。
「えい、いらッしゃい」
 と特別の声でむかえて、女の方へ目顔で知らせる。
「今度きた女中です。ズブの素人で、客扱いには馴れませんから、やることが不作法ですが、ウチのお客さん方はみなさん酒と料理で満足して下さる方ばかりですから、かえって、まア、愛嬌ものかも知れません。ワタシ同様、ゴヒイキにおたのうしやす」
 そう紹介してやっているのに、挨拶に近づいてくる風もない。不馴れなのだから、ほったらかしておいてやれ、と千鳥波は気にかけず、
「おい、お銚子。お酒をつ
前へ 次へ
全27ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング