の常連の中でも、毎晩必ず九時に現れる三人の人、オーさん、ヤアさん、ツウさん、この三人が超特別のお客なんだよ。そのうちのヤアさんは頭のハゲを気にしているから、まちがってもハゲの話をしちゃいけないぜ。オーさんは酔っ払うと清元の三千歳《みちとせ》を語る癖があるんだが、その時は渋いですネ、と云わなきゃならない。水商売は本当のことを言っちゃならないものなんだが、当節の芸者はいっぱし批評家づらアしてお客をやりこめて、しくじりやがる。ワタシたち相撲の方が、客あつかいの礼儀というものを心得ていたものだ。ツウさんは腸が悪いから五分に一発ぐらいずつ大きな屁をたれる。そのとき笑っちゃいけないよ。屁なんてえものは、なんにもおかしいものじゃアないや。自分でたれてみりゃ分らアな。屁をたれるな、と気付いたトタンに、ガチャ/\それとなく皿など重ねて音をたてゝあげるだけのカンと思いやりが閃くようになりゃ、奥ゆかしいというものだ。この店は味を売る店だから、余分の愛嬌はいらないことだが、タシナミと明るさがなきゃいけない」
 と訓辞を与えておく。
 暮方から客扱いを見ていると、全然ズブの素人で、型に外れているのが面白い。普通
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