ヒラメクような才能はあるが、どれひとつ完成されたのがない。佐藤春夫氏も同意見だった。大岡昇平の『俘虜記』は好みからいうときらいだ。小林秀雄は正確だといっているが、あれは書かなくてもいゝことに正確だ。もっと簡単でなければいかん、あれじゃ素人臭いよ。それに「戦争物」を書くにしても、あんなに書くのは賛成じゃない。戦争ものは戦闘そのものに主題があるべきだ。『捕虜第一号』なんか、読んだ者は唖然とするだろう。ボクらの読みたい「戦争物」は冒険物語なんだ。しかるにあれはやはり俘虜記だ。文学はあんなもんじゃない。基地から死地へ向って行く、その間の緊迫した事件が文学の主題であるべきだ。後からの感想の部分なんて、てんでだめだ。大岡君の場合は『捕虜第一号』のような、あんな勇士じゃないんだが、テーマ自体が些末だという気がする、そして遊んでいると思うね。小林みたいな言いかたでほめればほめることが出来るし、ボクも不賛成じゃないが……ボクももし横光賞の銓衡委員だったとすれば、あれをとっただろう。然しあれでは本当の戦争小説とは言えないと思う。
政治談議
コムミュニズムの連中のうちでは半田義之なんかいゝね
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