。彼はコムミュニストになっても、のうのうと恋愛小説を書いている、あれでなくちゃ文学者として駄目だ。女学生の恋愛感情の機微などよくとらえて楽しそうに書いている。私小説は書いていない。あんな風にコムミュニスト作家がなるとたのしいんだがなあ。中野重治にもそうしたむきはあるが、やはりカタイ。政治家になってしまって、昔の鋭さがなくなった。芸術家よりカチカチの党員だね。共産主義になって作品が変るのはヘンだ。どうも共産党に入ると芸術家でなくなる人が多いね。内田巌なんかそうだ。彼みたいなのは困るよ。党員の素質が悪いのはたんに末端だけじゃないね。
 石川淳さんは、もし党員になったら、モノスゴイ善玉悪玉小説を書く、すべての資本家は悪玉で、労働者はことごとく善玉に書く、と云ってるそうだが、あの人は心にもないことを言う人でね、理想論をいう人で、あの人の作品はいつも現実とギャップがあるようだ。石川さんなんか右か左か、どちらかへ行く人なんだが、右へ行くね、徳川夢声みたいに。夢声は、ボクも好きで、非常にすぐれた面白い人物だが、たゞあんなに天皇が好きなのはどうも解せない。この点、石川淳さんは天皇制打倒で、どうして終戦
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