は入れ歯を返してよこす筈はない。
 ヤス子の笑顔のあたゝかさは、衣子の醜怪な憎しみに対して私へ寄せるいたわりのシルシであろうか。私はヤス子に、こんなにあたゝかく遇せられたことはなかった。怒りも羞らいも、私は忘れることができた。
「すると、あなたが、ハンケチに包んで下さったのですね。なんて、幸福なんだろう」
 私はハンケチを押しいたゞいた。すると、胸がつまり、にわかに涙があふれでゝくるのである。私は押しいたゞいたまゝハンケチを目に押し当てゝごまかしたが、涙はいつまでもとまらず、顔を膝に当てゝ起すことができなかった。

          ★

 私が美代子を誘拐したのは、それから二ヶ月ほど後のことであった。
 私はヤス子の名を用いて美代子をよびだし、会員組織のホールへ案内して、今にヤス子がくる筈だからと、飲んで踊って酔わせておいて、じゃア、こゝのあとで、御飯をたべる約束だから、そっちで待っているのだろうと、さらに飲み屋へ案内して泥酔させ、前後不覚の美代子を待合へつれこんで、衣子と寝たその部屋で、私はかねての思いをとげた。
 私という奴がどんなバカだか、すでに皆さん御承知の筈だ。
 私は結
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