びしく見つめて、言った。それは私を励ますような様子でもあった。母性愛の一変形というような、いわば不良児へのいたわりと激励というところであろう。そこで私がウマを合わせて、
「じゃア、見込みがないわけでもないのだな。そう考えて、よろしいのですね」
 ヤス子は答えない。なんとなく、侘びしそうな浮かない様子であった。冗談が嫌いなのだろう。
「ヤス子さん。あなたを高めるといったって、事実、私は全部のものを今こゝへさらけ出しているのですよ。手練手管のある人間でもなく、頭のヒキダシの中に学問をつめこんでおく男でもありません。まったく、これだけの人間です。先程も申しました通り、つまり、恋と愛人とに奉仕する、すべてを賭けて奉仕のマゴコロを致すというだけの人間なんです。それが私の身上です。イノチなのです。それが人を、高めるのか、低めるのか、それは私は知りません。たゞ、人を傷つけないことは確かです。そして高めるかどうか、その答が、実際にためしてみた後でなくて、いったい、現れてくるものでしょうか。私は私のすべてのものに賭けて、ひたすら、あなたに奉仕のマゴコロを致したいのです。ためして下さい。そして、それが意に
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