ウジムシに見えるでしょうが、恋に奉仕する私の下僕の心構えというものは、これはともかく、私がとるにも足らぬものながらこの一生を賭けているカケガエのない魂で、これだけが私の生存の意味でもあり、誇りでもあり、私の全部でもあるのです。私があなたにマゴコロこめて奉仕することを許していたゞきたいものです。如何なる仰せにも従います。犬馬の労をつくします。私はあなたの心もからだも、下僕のマゴコロの尊敬をこめて愛し仕えますから、どうか私と遊んで下さい。この願いをきゝいれて下さい」
ヤス子の顔色は相変らず犯しがたいものがあったが、むしろいくらか、やわらかな翳がさして、
「私は肉体にこだわるものではありません。終戦後、様々な幻滅から、私の考えも変りましたが、然し、理想をすてたわけではありません。肉体の純潔などゝいうことよりも、もっと大切な何かゞある。そういう意味で、私はもはや肉体の純潔などに縛られようとは思わなくなっているのです。然し、肉体を軽々しく扱うつもりはありませず、肉慾的な快楽のみで恋をする気もありませぬ。社長はよく仰有いますね。恋は一時のもの、一時的な病的心理にすぎないのだから、と。それは私も同
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