てお話するのが変テコで、まして、その関係を利用しているようなのが、やりきれないのです。社長なんかと思わずに、きいて下さい。私はあなたを尊敬し、おしたいしている下僕です。もとより私は、一介のヤミ屋、教養とても低い男です。無数に恋もしてきました。私は然しいつも恋に仕え、愛人に仕えることを喜びとしたものです。私は結婚しようの何のと、そんなウソはついたことがありません。私はいつも下僕と遊んで下さい、たゞ遊んで下さいと頼むのです。どうせ私のような者には、はじめから御気に召して下さる御婦人はありませんから、私はいつも、必死にたゞもう頼むのですよ。その代り、お気に召すよう、どのような努力も致します。仰せにしたがい、どのようにもして実を見せます。水火をいといません。どの愛人にも、そうでした。然し、ヤス子さん、地位も学もない私如き者のことですから、私のかかわりあった御婦人も御同様、学も理想も気品もない方々ばかりで、これはひとえに敗戦によるタマモノでしょう、あなたのような高貴な、また識見高い御婦人に近づき得るなどゝは、夢のような思いなのですよ。あなたから見れば、下賤、下素《げす》下郎《げろう》、卑しむべき
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