ような紳士の型に好感がもてないのです」
と、言った。
そんな言葉をマにうけて、胸に大事に守っているから、私はバカだ。すべて紳士というものは、そこのジロリをジロリでなくする。さればこそ、恋も浮気も四十から、そうきまったものではないか。一目見て、惚れ合った、胸がワクワク、恋の歓喜、バカバカしい。好き合ったなら、それだけのことじゃないか。狐も蝉も秋の夜の虫も森にすだく、ツガもないこと、若気の恋は人も虫も変りはない。ジロリをジロリでなくすること、それを人生の目的の如くに心得ている私でありながら、私というバカは、御婦人の快い言葉をいとも大事に胸の宝にだきしめているのだから、私はダメな人間である。
二週間も後になると、もうヤス子は、あの方は立派な方、というようになっている。にわかに私が慌てる、もう、おそい。
★
美代子はともかく家へ戻った。送りとゞけた私は、衣子に向って、
「ねえ、奥さん。あなたがこの縁談に不満なのは、入聟、そしてお聟さんが当病院の後継者、その条件が御不満なのじゃありませんか。ところが、大浦種則氏は美代子さんに向って、自分もこの条件に賛成ではない。兄
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