博士からの縁談は御破算にして、自分一個と美代子さん、自分が美代子さんをお嫁にいたゞく、改めてそれを考慮していたゞきたいと言ったそうですよ。美代子さんはそれをブリブリ怒っているのですが、これが娘心の秘密という奴なんで、実は大浦種則氏が好きになった、好きになったということが納得できないもので、アベコベに御立腹遊ばされておるというのが実状だと私は見立てた次第です。御両人が内々好きあっており、共に入聟ということに御不満で、兄博士の申入れとは別個に、自分たちだけの結婚にしたいという御意向の様子ですから、成行きにとらわれず、内々の御希望通り、まとめてあげては如何なものでしょう」
 と申上げた。すると衣子は、そうですか、考えてみましょう、などゝは言わず、例のジロリと一ベツをくれて、
「ずいぶん、ワケ知りですことね」
 と突き刺した。
 そんなジロリはお構いなし、というのが、私が金竜から得た教訓で、このジロリはつまり承諾の意と解し、ひとり合点の要領で、シャニムニ自分勝手にオセッカイを取りはからう。そのアゲクが柳眉を逆立てられることになったら、そこは又そこで、窮余の奥の手にすがるのである。私自身がオッチ
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