は、底が知れた、あとがない、ヌキサシならぬ重量を感じる。首がまわらぬ、八方ふさがり、全体がたゞハリツメタ重さばかりで、無性にイライラするばかり。
 そのあげくには、自分の人相がメッキリ険悪になったという、鏡を見ずに、それが感じられる変な自覚に苦しむようになった。
 目薬をさしたり、毎日ていねいにヒゲをそったり、一日に何回となく顔を洗ったり、できれば厚化粧のメーキアップもしたいような気持になるのも、美男になりたい魂胆などでは更になく、たゞ人相をやわらげたいという一念からだ。
 私は然し、こうして三人のジロリの女に狙いをつけても、決して恋愛の技術などに自信のあるものではなかった。私はたゞ目的に徹し、目的のためにのみ生きることに自信をかけていた。そして、目的のためにマゴコロをさゝげる。したがって、この御三方にマゴコロをさゝげる。私の知る口説《くどき》の原理はそれだけであった。
 私など本来のガラッ八で、およそ通人などゝいうものではなく、又、もとより、人間通でもない。だから、堅く天地神明に誓いをたてて御婦人を追い廻しても、悟らざること甚しく、恋いこがれ、邪推し、千々に乱れて、あげくには深酒に浮
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