身をやつす哀れなキリギリスにすぎなかった。
もっとも、色道はこれ本来迷いの道であるが、私などはその迷いにすら通じてはおらず、こしかたを振りかえればサンタンたるヌカルミの道であったが、後世のお笑い草に筆をとるのも、今は私のはかない楽しみである。
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十九の娘の縁談などゝいうものは、男が好きだの嫌いだのと云っても、恋愛感情によってじゃなしに、全然浪漫的気分によって自分の人生を遊んでいるに過ぎないようなものだから、好きも嫌いも、ちょッとの風の吹き廻しで、百八十度にグラリと変ってすましたものだ。
岩本は芸なし猿で、美代子に直談判して、大浦博士と衣子に関係があること、今度の縁談はていよく病院を乗取る魂胆だというようなことをきかせたものだ。美代子は内々そのフンイキを感じて怖れていたのだから、これを別の人の口からきかされたら話は別だが、それによって利益を得る当人が自ら言ってはブチコワシで、事の当否にかゝわらず、綺麗ずきの娘心が立腹するのは当然である。
あなたは卑怯者、脅迫者だと云って、美代子は即座に岩本に最後の言葉をたゝきつけた。
美代子の激昂はそれだけではおさまら
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