恥をお話しなければならぬが、私が金龍にコキ使われ、辱しめに堪え、死ぬ以上の恥を忍んで平伏してふし拝んだり、それというのも、肉体のミレンよりも、そうすることが愉しかったからである。
 私というものは、金龍にとっては歯牙にもかけておらぬ奴隷にすぎず、踏んだり蹴ったり、ポイとつまんでゴミのように捨てゝ、金龍は一秒間の感傷に苦しむこともないのである。男女関係に於て、その馬鹿阿呆になりきること、なれるということ、それが金龍を知ることによって、神に授けていただいた恩寵であり宿命であった。
 三人のジロリの女を射とめなければならないこと、そしてそれが特にジロリの女でなければならぬこと、これ又、私の宿命である。
 こう言いきると、いかにも私がムリに言いきろうとしているように思われるかも知れないが、ムリなところは更にない。あべこべに、私の生きる目的が、もはや、これだけのものだ、とハッキリ分ってしまったことが、切ないのである。自分の人生とか、自分の心というものに、自分の知らない奥があり、まだ何かゞある。そう感じられる人生は救いがあるというものだ。
 私のように、自分がこれだけのものだと分ってしまって
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